不動産投資という資産形成手段

不動産投資という資産形成手段

 定年年齢が早い自衛官にとって、退職後の備えをしておくことはとても大切です。そのため、有形、無形の資産の現状を把握し、将来にわたる人生のキャッシュフローを適切に見通して、早い時期から必要な処置を講じておくべきことは前回記事でお伝えした通りです。

 自らの資産のうち、計数的に可視化できない無形の資産についてですが、それぞれに固有の健康、知識、経験、人脈、趣味等の他、公務員・自衛官にほぼ等しく授かっている無形資産があります。それが、崇高な職務の内容と、安定した収入が約束されていることから得られる社会的地位と信用であり、これを有形資産形成の観点からは「与信力」(Credit)と言い換えることができます。

 例えば、「与信力」があれば、クレジットカードの発行やローンによる車の購入にあたり、よほどのことが無い限り、審査に落ちてこれらが得られないことはありません。我々はどうしても、既に与えられている物事を空気のように当然のことと思いがちですが、実はその価値は自らが感じている以上にとても大きいものです。この「与信力」を活用した資産形成要領の一つ、公務員・自衛官と相性の良い一手段として、不動産投資が挙げられます。

 不動産投資の一般的な例は、都市部のマンションの一室又は数室をローンにより購入して賃貸に出し、ローン返済を賃料収入により相殺していくものです。いわゆる「大家」として不動産を運用することになりますが、物件の管理や家賃の回収等の業務を専門の管理会社に委託するため、公務員が禁ぜられている「副業」に当たることはなく、自らは職務に専念することができます。また、時間が経つにつれローン残債が賃料収入により減少していき、退職後にローン完済となれば、後は、定期的な賃料収入を年金の様に得られる有形資産を手にすることになります。無形資産の「与信力」を「時間」を活用して有形資産の「不動産」に形成していく、とも言い換えることができるでしょう。

 もちろん、購入にあたっては、長期のパートナーとなる信頼できる不動産業者をしっかりと選定するとともに、物件の築年数、価格、立地、賃料等、資産としての価値をよく見極め、将来のキャッシュフローとの吻合を適切に図っておく必要があります。これらを怠らなければ、老後の安心を得るための処置として、不動産投資は有用な手段となり得るでしょう。

 私自身の話となりますが、以前、様々な個人的悩みから自衛官を中途退職することを真剣に検討し、1年間の葛藤を経てようやくあるベンチャー企業から内定を得られたことがありました。この会社の仕事内容や理念には強く惚れこんでいたため、転職の第一歩を踏み出そうとしたまさにその時、これを思い止まらせた理由の一つが、これを機に自らの将来のキャッシュフローを改めて詳細に見積もった結果であり、更には冒頭に述べた「与信力」の大きさに気付かされたからでした。(理由はこれだけではありませんが…)

 結果、自衛官として職務に専念する道を決意したのですが、将来キャッシュフロー見積の結論は、引き続き自衛官として奉職するとしても、将来への備えとして何らかの処置を講じておく必要がある、ということでした。中途退職の真剣な悩みが、ある意味、将来への備えを詳細に考えるいいきっかけになったのかもしれません。

 ご参考までに、私自身が行った将来見積を結論だけ計数的に例示します。定年退職時、もし再就職ができなかった場合を想定、その時点で予想される貯蓄と退職金を切り崩しつつ、65才からは夫婦で年金を受給しながら、慎ましく生活をしていった場合、90才の時には手持ち額が約80万円にまで落ち込み、翌年には赤字に転じてしまうという試算結果でした。

 これに対し、第一段として講じた手段が、不動産投資です。これにより、非常にシビアに見積もっても、90才の時の手持ち額は約400万円となり、赤字に転ずる年齢は95才となりました。さらに異なる点として、この時点では、築古ながらも資産価値のある不動産を所有しており、これを売却するという選択肢も残されることになったということです。併せて、現時点においてでも私自身に万一のことがあった場合は、団体信用生命保険によりローン残債そのものが無くなるため、以降は残された家族に定期的な賃料収入を生む資産が残されるという、遺族年金の様な副次的な効果も得られることとなりました。

 如何でしょうか。私自身、定年後に再就職できるための健康や知識、経験、人脈等の無形資産を形成しておくことが如何に大切かを痛感するとともに、若くして定年退職を迎えた後再就職が全く出来ない最悪の場合を見越した、有形資産形成の処置が如何に求められているかを改めて感じているところです。

 不動産投資は、株やFX、仮想通貨等、もし成功すれば一挙に大金を手にするような類のものではありません。その一方、時間をかけて着実に資産形成を図るための有用な手段の一つであり、取り組みは早ければ早いほどその効果は増大していくものであるということを是非、お伝えしたいと思います。

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